BETTER COLORS
July 3, 2022

自然の色で良い方向を創り出す。
染めアーティスト畑野駿さんの願い
相模湾・東京湾・太平洋に囲まれる三浦半島の南端部。染めアーティストの畑野駿さんがひっそりと居を構えるのは木々に囲まれた丘の中腹部。少し歩くと海や漁港が見渡せる眺めの良い丘で、野性的な動植物と至近距離の暮らしを営んでいます。2020年に森星とライフスタイルショップ『city shed』でコラボレーションをして以来、ものづくりへの姿勢に意気投合した2人は探究心をぶつけ合う仲間でもあります。タイダイの柄が持つ文化的背景を考えながら、伝統的な技術を発展させて新しい染めの可能性を探り続けています。

アメリカで古着の仕入れをしながら様々なカルチャーに触れてきた駿さんは、染めを始めてまだ4年ほど。友人の誘いでタイダイに染めた洋服をフリーマーケットで出店したのがきっかけでした。駿さんが施す特徴的なタイダイ柄はまたたく間に話題を呼び、ブランドや古着店、ミュージシャンの衣装など様々な制作オファーが舞い込むように。多岐にわたる依頼を受けながらも、新しく作られる服というモノの価値観への向き合い方を問うていたとか。

「最初は褒めてもらうことが嬉しかったんですよね。汚れやシミで商品にできないものを染めで商品化したらどうだろう、と古着店を営む友人の提案をきっかけにはじめて、そこからずっと考え方は変わらずやっていました。それが徐々にブランドのTシャツ制作などの依頼が来るようになったときに違和感を感じたんです。わざわざ新しく作ること無いのにって。そこから、考えの根っこがそこにあるブランドとしか取引したくないなって思ったんです」
「売るために作るっていう思考になってないんですよね」という駿さんが大切にしたいのは“新しいものを作って売って終わり”ではない思想感。それをさらに現代の流れに“寄せていく”ために、草木染めという手法を選択し、思想を伝わりやすいものにしました。染料だからこそキレイに出せる色を草木だったらどう表現するのか、という考え方へのシフトが新しい出会いを運んできました。

5キロ圏内で採れる草花で染める
「雑草を使うのでみんな喜んでくれて。町の人も今ヨモギで染めてるっていうと大量に持って来てくれたりする。街ぐるみで実験に付き合ってくれるんですよね」。アトリエ周辺に存在する全ての自然色を抽出して、理想の色づくり研究に勤しむ毎日。季節によって草花と色が変化するなか、あえて素材を5キロ圏内の出会いのみに絞っているのだとか。その根底には、便利に囲まれた生活に消されてしまったモノの真価を改めて問いかけ、出会いの喜びという純粋な感動に立ち返るという信念があります。

「もともと仕入れをやっていたので、ものに対してすごく感動するんです。でも今みんなあんまり感じずにお金を使っていると思うんですよね。僕1年ぐらい前に百均でものを買うのをやめたんです。百均って便利なようですごく不便なんですよね。百均の影響で街工場が作れなくなって、いまは百均にしか無いものばかりになって。そうすると、ものが一律で100円という価値をつけられちゃう。それだと100円クオリティでしかずっと進んでいかない。“良いもの”っていう意識を、自分が携わって世に出ていったものには味わっていて欲しいなと思うんですよ」。
最近は買ってくれた人の2年後を考えて作るようにしているとか。
「時々、持ち寄った古着を染めて返すというタイダイの受注イベントをやっているんですが、始めてからもう2年ぐらい経つので、染め直しは無料へとルールを変えたんです。自分のところで作ったものだから、そこまで責任ろうと。嬉しいですよ、2年後の服を見れて。結構着てくれてるな〜とか、緑だったけど退色して黄色が出てきてるからこの黄色を生かしてどうしようかなとか、やってること自体が楽しい。ちょっとは売上も考えないと、とは思っているんですけどこれが10年続く方が良いから」。

若い頃に感じた買い物の初期衝動
駿さんは淡路島の出身。買い物は、バスに乗って1時間半かけてようやく神戸に到着します。小学生の頃、本土までの移動は船のみでした。お金を握りしめてワクワクしながら向かっていたあの頃の感覚が忘れられないといいます。考えなく浪費するのではなく、欲しいものをじっくり見定めて買う習慣を守りたいこともあって、あえて東京との距離を置いているのだそうです。

「手前のフェイクみたいなものを買うよりは自分で作ろうと。なるべく買う回数を減らして良い方向に、という考え方でいると、自分のものづくりにも影響してくる。1年ぐらい前から高い染めの技術を持つ地方の染め屋さんから染め方を学んでいます。僕に今オファーをくれるブランドは、価格よりも僕にしか出せないクオリティの高いタイダイを求めて、辛抱強く実験に付き合ってくれている。だから草木も含めて、今までになかった染め方や色を提案できるようにと研究を進めています。今、三浦半島の4箇所にデニムを埋めてるんですよ。赤土、黒土、水気の多い土に何箇所か置いて、1年置いて色を見てみようと。
ゴールは「染料がいらなくなること」。“良い方向”にすすむ世界に向けて、駿さんの挑戦は続きます。
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