Innovating Miyakojima Traditions Through Art

November 8, 2022
宮古島で書をベースに作品を制作するアーティスト新城大地郎

芸術を通して宮古島の伝統に革新をもたらすアーティスト、新城大地郎の視点

生まれ育った宮古島で書をベースに作家活動する新城大地郎さん。民俗学者であり禅僧であった祖父の影響で幼い頃から刷り込まれてきた禅の教えは、作品への向き合い方だけでなくアーティストとしてのありかたそのものを作り上げていると言えるかもしれません。宮古島が抱えるさまざまな重たい歴史を受け止め、言葉や色、形状を通して先人のルーツを今の時代へと循環させています。これまでの墨の作品に加えて、宮古島で活動する藍の染色家であり宮古上布の織り手でもある、砂川美恵子さんの協力を得て新しい表現へと発展させた作品について、また新プロジェクトであるPALIギャラリーに込めた思いを聞いてみました。

宮古島のPALIギャラリーにて新城大地郎の展示風景

今回の展示『雨ニモマケテ 風ニモマケテ』は、去年ファッションブランドHermès(エルメス)とともに制作されたプロジェクト(※1)から端を発したものだとのこと。その制作の背景を教えていただけますか。
藍の職人である砂川美恵子さんのところにはじめていったのは、2年前にさかのぼります。昨年Hermesの撮影で伺う1年前、コロナで島外に出られなかった時期にこの島の中で生成されている色を探ろうと思って行ってみたのが彼女とのファーストタッチです。Hermèsのプロジェクトをきっかけに、実践的に取り組み始めました。

その後も何度も行き来をして学びを深めたのでしょうか?
アーティスト仲間として色々相談しながらやっていきました。彼女は染めて織る人として活動していますが、僕は描くことを表現としているので、顔料として描く時に機能させなきゃいけないことがある。色の濃度やどう定着させるかといった色々な要素があるなかで、僕がやろうとしていることは彼女にとっても新しいアプローチだったこともありいろいろな相談にのってくれました。自分が作った藍で僕が新しい表現や取り組みをすることを嬉しいと喜んでくれたので良かったと思っています。

宮古島で活動するアーティスト新城大地郎のアトリエ

黒から藍の色への興味がそそられたきっかけは?
これまでは文化も歴史も違う国に行って身体を動かした先に自分の精神の所在が一番分かりやすいのかなと思っていたんですが、コロナ渦でどうしても行けなかったので、次第に心が内側に動いていきました。もともと藍には強い思いがあったんです。宮古上布という織を博物館によく観にいくんですが、一見黒なんですね。でも見ているとどんどん藍色に見えてくる。何度も染めることで黒くなっていく、この黒を描きたいって思ったのがあった。藍にも色んな色があって一色ではないんです。やっぱり、美恵子さんの作った宮古上布がきっかけですかね。

砂川美恵子さんの創作から学んだ事柄も多かったかと。特に印象的なことは?
美恵子さんは藍を育てるのが好きで自分でパターンを組んで、デザインもしていらっしゃいます。そういう工程を一から全て踏むことで意図していなくても時代を反映していくんですよね。紋様や色によって作り手の感覚がそのまま反映されていくのを見て、特に藍や織物は想いが映し出されやすいものだなと感じました。自分が最初に藍を使うことや描くことに躊躇したのは、そういう彼女の作る織りに対するリスペクトの気持ちが強かったからなのかもしれないな、と思いましたね。

宮古島で活動するアーティスト新城大地郎の藍を使った制作

藍を燃やしてドローイングされていましたね。藍という素材に向き合う気持ちの強さを感じました。
藍の発酵を促進するために、黒砂糖や泡盛を入れ、藍を生き物として育てる…というのを美恵子さんから見せてもらって泡盛を入れたんです。僕はもともと墨をぐつぐつと温めながら描くので、僕のスタイルと新しい藍という素材を融合させました。

温めると色が濃くなるんですか?
濃くなる意識があって。余計なものが飛んでいくような感じといったらいいでしょうか。現在は膠と藍を混ぜて作っています。古来の知恵で、色にしたい顔料、例えば藍や煤(墨の原料)に膠(にかわ)が交わることで、それが接着剤の役割になって紙やキャンバスに付着するんです。他にも、泥藍の状態から藍を自然乾燥させてパウダー状にした粉と膠を混ぜるなど、色々と試しています。工程によって濃さが違ってくるので何が正解とかはなくて、それぞれだなっていうくらい自然物なんですよね。放っておくと腐りもしますし。安定している顔料を買おうと思えば画材屋に売っていますが、どうしてもやっぱり生ものに魅力を感じるんですよね。

生ものは生きているからですか?
I不安定な先に一番自分が表れるんじゃないかなと思っていて。今こうして自分で一から作ってみると、時間はかかるけどそこに大事な要素が存在している気がしていて。そこから作品はスタートしているような感じがするというか。セッションをしながら純粋なものに問いをかけながら作っていく、過程そのものに学んでいるのかなと思っています。

顔料作りから始まって描くという作業はある種の自分探しといえるのでしょうか。
僕が描いているモチーフは言葉や文字ではありますが、果たしてそれは自分の本来の意味している言葉か?文字なのか?という問いとともにあります。成長していくに連れて自分が見たものや人に聞いたことなどから学んで賢くなっていくけれど、分かったつもりになっていないかと。皆が言うからこれが正しいと感じたり、皆と同じ意見であることで安心しそうな時に「本当にそう思ってる?」って問いを立てていくことで自分の存在が見えるのかなと思いますね。変化の多い世の中で、変化に対してどれだけ疑問を持てるか。発展していくことが素晴らしい世の中を作っていくとは思うんですけど、発展の仕方やスピードが早く、情報の多い世の中で自分が持っている無垢なものを探し続けることが僕のテーマでもあるんですよね。これはずっと思っていくものだと思うし、悟りを開くことぐらいの境地というか。常に矛盾を繰り返していくじゃないですか。だからそこを諦めたくないというか。

宮古島で活動する書をベースとしたアーティスト新城大地郎の制作風景

育ってきた環境はどのように関係しているのでしょうか。
変化に敏感な島っていうのは作品作りをしている中で感じていたことです。最初はなぜ書き続けているのかが分からなかったんですが、自分の育った環境や歴史に向き合ったときに、常に翻弄されてきている歴史があると知った。台風や干ばつによって生活が苦しかったり、政治的にも翻弄されてきた歴史がある。自然的にも政治的にも常に変化を繰り返している

宮古島は、自分たちの立ち位置が分からないくらいに色んな影響を受けてきた島であり、それを受け入れる精神がある島だと思っていて。だから変わっていくものに対して、逆に変わっていかないものはなんだとか、ということをしっかりと考えていきたいなと。どれだけ国が変わっても自分たちのルーツであるこの島の輪郭は変わらないわけで、そこを探っていきたいなと思うからこそ描き続けているんですよね。

描くという行為は一瞬です。何枚も描くのは、そこに自分の存在を確かめているからかもしれない。文字という、誰もが分かる記号をモチーフにしていることにも意味があるのかもしれない。自分の文字、精神を投影し見る。作品に対して、自分のバックボーンっていうのはかなり影響していることですね。藍への興味にも通じます。

大地郎さんの作品からは、時間とともに風化されてしまう土地の文化をつなぐという願いを強く感じます。伝統を紡ぐにあたり責任のようなものは感じていらっしゃるのでしょうか。
使命感とはまた違った形で、表現をしていくことが循環することに繋がっていくとは考えています。伝統的なものに対して新しいアプローチを加えることはすごく勇気のいることだったり、固定化され形式化されたことを壊さなきゃいけないこともあったりする。でも壊し過ぎたらゼロになってしまうから、守るべきものはあるけれど、革新を積み重ねていかないと空気が停滞してしまうような感じもしています。アーティストの役割として、自分たちの住んでいる街や社会に対しての危機感を表現し続けなきゃいけない。歴史や先人から生まれてきたアイデアによるものをルーツとして、今の時代の僕らアーティストたちがどれだけ優しく・強く表現していくのかということを役割として感じていますね。責任というよりは生きがいというような感じです。時代や社会を僕なりの視点や新しい視座を見つけて表現に繋げていくことが大切なのかなとは思います。

最近、PALIギャラリーをローンチされました。
アトリエから歩いて5分くらいの場所にあります。写真家の石川直樹さんと共同ディレクターを務めているのですが、宮古に表現をする場所がないからいつか作りたいねっていうところからはじまりました。場所を作ること、風景を作ることも僕なりの1つの表現。 ギャラリーにあらゆる人たちが集い、アートをきっかけに音楽、政治、歴史、カルチャーの話をする。そういう引き出しが表現にはあるはずです。サロン的な場所を町の真ん中におくことで、住んでいる人も訪れた人も移住された人も、沢山の人達の見る目が変わっていくんじゃないかと思っています。

宮古島の新スポットPALIギャラリー

開発のスピードが早い宮古島での、あらたな文化施設となりそうですね。
そう、目に見える変化を前に考える隙間を作るための施設でもあるんですよね。政治的にダイレクトにアクションを起こすやり方もあると思うけれど、フラットに介入していきたいなっていうのがあって。ギャラリーは表現が集う空間としてすごく可能性を持っていると思っていてます。ギャラリー内にコーヒー/ワインスタンドを併設したこともアートに興味がない方へもギャラリーへ来るきっかけを作りたかったからです。元々宮古はそういう場所がなくて一方通行だった。きっと宮古にとっても意味があるし、僕や石川さんのような表現者にとっても新しいきっかけをもらえるはずだと思っています。

アーティスト・イン・レジデンス・プログラムを組んでいるんですが、アーティストが宮古に長期滞在して作品を作ったり、表現へ繋げることは僕らに色んな視点をくれることにつながる。住んでいると分からないようなことやシーンをそういう人たちは表現してくれる。そこを島の人や自分も含めて皆がキャッチして考える機会を増やしていけたらいいなと思っています。変化に対してのスピードや、やり方も考えられるんじゃないかな。

様々な価値観の人が集い、話をして、時には議論をして。それを全部持ち帰って表現に注ぎ込んでいくというのは有意義なこと。どんどん開いていってお互いの今思っていることを話し合う、対話する時間を多く持つことで、保守的になりがちな小さな島に心地よく革新をもたらすことができたら良いですね。

宮古島のPALIギャラリーの様子

※1 https://www.hermes.com/jp/ja/story/290983-HumanOdyssey-EP1-main

写真 新城大地郎
編集& 執筆 佐藤由佳
デザイン 堀江真実



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