ORIGIN OF MINDFULNESS
November 05, 2021

禅の発祥、總持寺祖院からひろがるマインドフルネス
世界のリーダーたちが実践し、多くの有名企業が社員に取り入れている瞑想法、マインドフルネス。今起きていることに集中し、安らぎを得るためのトレーニングで、日々行うと考えやものごとが整理される効果があると幅広く親しまれています。生産性や効率を重視していたと言われるApple社を創業した故・スティーブ・ジョブスも実践していたというのは有名なエピソードです。
このマインドフルネスの原点となったのが、禅を教えの根本とする曹洞宗であることをご存知でしょうか。数ある仏教の中で曹洞宗は、坐禅という行為をメソッドとして鎌倉時代から受け継がれてきました。開祖である道元禅師の教えを守り、瑩山紹瑾禅師(けいざんじょうきんぜんじ)が總持寺を創設したのが1321年。明治の大火によって大本山は神奈川県の鶴見に移転しましたが、2021年は大本山總持寺開創7百年の節目となります。
禅の存在を世界に持ち出し、現代社会に広く普及させた存在として欠かせないのが、仏教学者の鈴木大拙です。アメリカで禅に関する著書を多く出版し、その後の発展の礎を築いたその人の故郷が、禅の教えから様々な思想を発展させた哲学者であり同級生の西田幾多郎とともに石川県であるという事実から、長い歴史の中で生まれた偶然のロマンを感じずにはいられません。

總持寺祖院で
坐禅の作法と本質に触れる
予約をすると坐禅を体験することができる、石川県輪島市の總持寺祖院。
坐禅堂(僧堂)は通常、僧侶たちの生活の基盤であり神聖な場所であるため、私語はNG。僧侶たちが坐禅を組む時には線香が焚かれ、その長さは炷(ちゅう)という単位で表現されます。1炷は約40分。僧侶たちは朝と夜それぞれ1炷の坐禅を組まれるそうです。
坐禅堂に祀られる文殊菩薩に礼拝し、一緒に坐る両隣と向かいの人々に対して礼をしたら、坐蒲に腰を下ろします。壁に向かい姿勢と呼吸を整えたら、始まりの鐘がなります。丹田の前においた両手で円の形を作り、視線を落とし壁の一点を見つめます。坐禅中は頭の中にものごとが浮かんでも深追いせず、そのまま受け流して“いま”を捉えること。考えを進めず、過ぎ去るのをただ見つめて行くといつしか鳥のさえずりや遠くの鐘の音が聞こえ、季節の草花の香りが漂ってきます。つい先ほどまで気づかなかった豊かな自然の営みが一気に身体の中に流れ込んでくるような不思議な感覚を覚えるはずです。

坐禅とは、
気づきのある日常のための備忘録
「坐禅を組むという行為は“今ある現実”を見つめて行くということです」。鐘の合図で約20分間の坐禅体験が終わると、僧侶が説法をしてくださいます。「考えを確定させず、起きていること全てに集中することによって、初めて外に意識が行き、“気づき”を得ることができる。この“気づきを得る”ということこそが、仏教における悟りそのものなのです」。何かに執着したり利己的な理想だけを追い続けがちな私たち。坐禅をライフワークに取り入れることは、視野を広く持つ習慣をもたらしフラットでクリエイティブな精神状態の基盤を作り上げてくれるのです。1日5分、椅子の上でもOK、まず続けてみることで変化を感じられるかもしれません。

悟りってなに?
4つの苦しみと解放への方程式
「気づき=悟り」という思想は、仏教の根幹へと繋がっていきます。そもそも仏教をつくったお釈迦様は実在していた人物。若かりし頃のお釈迦様は「生・老い・病・死」というこの世の4つの苦しみから人々を解放させるために出家をしました。苦しみに抗うため、断食や逆さ吊り、火の上を歩くといった苦行を6年間徹底的にやったけれど答えはでなかったそうです。しかしそのあと菩提樹の木の下で坐禅を行い、8日目に悟りをひらきました。それは「4つの苦しみから解放されることを追い求めるのではなく、全てを受け入れる」ということへの気づきだったそうです。
「ありのままを受け入れてください」静かな坐禅堂に響いた僧侶のお言葉。
このままでいいんだと、背中を押してもらうようでほんのりと心が温まります。問いかけがシンプルであるほどに奥深く、普遍的な教えと自然の偉大さは常にそこにあることが実感できるのです。
「生きることに真正面から向き合うことは同時に死にも向き合うこと。葬式は手厚く見送るための儀式であると共に、命尽きることへの畏怖の裏返しでもあるんです」と話す僧侶。禅を知ることは命を知ることとも言えるのかもしれません。現代の私たちは、仕事や人間関係など、表面的な活動に日々奪われがちな生活を送っています。禅や坐禅習慣を通して、人生を気づき多く豊かなものにして行きたいですよね。

曹洞宗大本山 總持寺祖院
add. 石川県輪島市門前町門前1-18甲
tel. 0768-42-0005
https://noto-soin.jp
*坐禅体験は事前予約が必要です